一部ではヘリコプターマネーなどと話題になっています。
今回はこのあまり聞きなれない方も多いヘリコプターマネーについて解説していきます。
Contents
1.ヘリコプターマネーとは?
ヘリコプターマネーとはカンタンに言うと、紙幣を増刷することで市中にばら撒くことなのですが、
もちろん実際にはヘリコプターで上空からお金をばら撒くわけではなく、政府が発行した永久債という無利子・償還期限の無い債券を中央銀行が買い入れる形で実施されます。
また、誤解のないように最初に補足させていただくと、
4/18現在、欧米や日本で打ち出している新型コロナウイルスに関連する巨額の経済対策は、
厳密にはヘリコプターマネーではく、疑似ヘリコプターマネーとなります。
※詳細は後述しています。
① ヘリコプターマネー名称の由来
このヘリコプターマネーは、ミルトン・フリードマンというアメリカの経済学者が1969年著作の本、「貨幣の悪戯」で初めて登場します。
この本の記述の中で「すでに流通している量に等しい貨幣をヘリコプターで上空から落とすと仮定しよう」と論じている箇所があり、
ここからヘリコプターマネーという名称が誕生しました。
② ヘリコプターマネーの仕組み
冒頭でも少し触れた通り政府が発行した永久債を中央銀行が買い入れる形で紙幣を市中に供給します。
実際のオペレーションを図解にすると以下になります。
通常の国債発行と違うのが、国債については有利子・有期限で市場を通して金融機関が買取りますが、
永久債は無利子・無期限で市場を通さずに中央銀行が直接買い取ります。
つまりマネタリーベースの増加が起こります。
因みにマネタリーベースとは、「日本銀行が世の中に直接的に供給するお金」を指します。
具体的には「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」です。
ちょっと聞きなれない言葉もあるかと思いますのでさらにそれぞれ補足します。
①日本銀行券発行高
→市中に出回っている紙幣の合計金額
②貨幣流通高
→市中に出回っている貨幣(硬貨)の合計金額
③日銀当座預金
→金融機関が日本銀行に預けている無利息の当座預金。
③の日銀当座預金を少し補足すると、「準備預金制度」という金融機関が一定比率の金額を日本銀行に預けることを義務付けています。
ここを詳しくご説明すると長くなってしまうのでカンタンにですが、
この日本銀行に預ける金額の比率、いわゆる預金準備率を上下させることによって市場金利を目標値に誘導しています。
③ 財政出動や量的緩和との相違点
ヘリコプターマネーの仕組みが分かったところで、既存の政策と何が違うのでしょうか?
これは日経新聞の記事に分かりやすい表があるのでこちらを引用してご説明します。
表がかなりコンパクトに纏められているのでそれぞれ少し補足しますが、以下の図も見て頂くとイメージしやすいかと思います。
※青〇が量的緩和、橙〇が財政支出のイメージです。
●ヘリマネ(ヘリコプターマネー)
永久債を発行するので財政赤字に(返済の必要は無いが見た目上は)。
ただ、永久債は無利子で償還期限が無いので実質は債務は増えません。
返済の必要が無いということはそのまま市中に紙幣が残りますので、
マネタリーベースは増加します。
●財政支出
主に国債発行で調達した資金で財政政策を行うので財政赤字に。
通常の国債はもちろん有利子で償還期限があるので債務は増えます。
市場を通して国債を発行/買い入れしているのでマネタリーベースは増えません。
●量的緩和
金融機関から国債や手形を買い取る形で市中に紙幣を供給しているので、
一時的にマネーサプライは増えますが、財政赤字はなく債務も増えません。
少し補足すると金融機関は当座預金残高に応じて民間や個人に融資を行う事ができます。
つまり量的緩和で国債などを日本銀行が金融機関から買い入れて、日本銀行の当座預金残高が増えると当座預金残高に比例して金融機関が融資に回せるので、
結果一時的にマネーサプライが増えるという構造になります。
●疑似ヘリコプターマネー
財政支出と量的緩和を合わせた(同時に行う)もので、
量的緩和で日本銀行が市場で金融機関から国債を買い入れ、政府は国債発行で中央銀行から資金を調達しているので、
やっていることはヘリコプターマネーと似ています。
2.ヘリコプターマネーのメリット/デメリット
結論から言うとメリットよりデメリットの方が大きいので先進国ではまだ導入例はありません。
実質ヘリコプターマネーのような疑似ヘリコプターマネー施策は実施されています。
① メリット
本来はお金を給付することで消費マインドを喚起し経済活性化が目的/メリットとなるのですが、
日本の国民性上どうしても貯蓄に回ってしまいがちなので、これはメリットとなりません。
ただ、現在/(4/18記事執筆)は新型コロナウイルスの影響で経済が止まってしまっています。
そのため企業の資金繰りが苦しかったり、個人も失業や収入源などの影響が出てきています。
根本的な解決にはなりませんがこういった緊急事態の際に、緊急の止血策としては有効です。
ですので財政規律の観点からヘリコプターマネーではないですが、
欧州や米国でも量的緩和の中で財政出動を行う「疑似ヘリコプターマネー」施策を打ち出しているわけです。
② デメリット
一番のデメリットはやはりハイパーインフレを引き起こす可能性です。
ハイパーインフレとは酷いインフレ状態のことで具体的には、物価上昇率が毎月50%以上となっている状態です。
毎月50%以上物価が上がるということは、1年後には物価が約130倍なります。
例えば自動販売機で100円だったジュースが13,000円になっている状態です。
もうこれでは通常の生活を続けていくのは無理ですね。。
過去のハイパーインフレの有名な例だとアルゼンチンやジンバブエでしょうか。
実は日本も戦後にハイパーインフレに陥ったことがあります。
3.ヘリコプターマネーでなぜハイパーインフレになるのか?
ヘリコプターマネーではなぜハイパーインフレの懸念があるのか?
疑似ヘリコプターマネーであればハイパーインフレの懸念はないのか?
それはこの2つの施策の決定的な違い、マネーサプライへの影響にあります。
これは1-3章でも掲出した図ですが、
ヘリコプターマネーは紙幣を増刷して市中に供給、もしくは政府が発行した永久債を中央銀行が買い入れて紙幣を供給するのでマネタリーベースが増加してしまいます。
疑似ヘリコプターマネーの場合は、量的緩和で一時的にはマネタリーベースが増加しますが、最終的には元に戻ります。
つまり、
マネタリーベースが増加する
ll
相対的に貨幣価値が下がる
ll
相対的に物価が上がる
という方程式が成り立ちますので、ハイパーインフレを引き起こす可能性があるのです。
4.まとめ
ニュースを見て今10万円をもらえるのはうれしいけど将来結局返すのでは?と思った方も多いかと思います。
もちろん今回の新型コロナウイルスに関連する経済対策は、キチンと補正予算を組んで永久債ではなく国債を発行するので将来的には国民で返していくお金となります。
ヘリコプターマネーについては
・専門家によっては物価上昇率はある程度コントロールできるので問題ない
という見解もあれば、
・物価上昇率を仮にコントロールできたとしても財政規律を失う
など意見が割れている状況です。
ただ、過去を振り返ってみると一度も成功した例が無いので今日まで先進国では実施した例がないのかと思います。
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